資本コスト経営(5) ハードルレートとしての資本コスト計算のフレームワーク

6.ハードルレートとしての資本コスト計算のフレームワーク

 では具体的にハードルレートをどのように計算するかということが課題となります。ここでは、今現在最も活用度の高い方法としてCAPM(Capital Asset Pricing Model、資本資産価格モデル)を取り上げる必要があります。
これは、先に述べましたように投資家が求めるであろう期待投資利益率を論理的に導き出すために考案されたモデルです。
このモデルでは、期待投資利益率は以下の計算式によって求められます。

期待投資利益率=リスクフリーレート+株式投資におけるリスクプレミアム×β値
株式投資におけるリスクプレミアム:株式全体市場の平均的期待投資利益率-リスクフリーレート
β値:個別企業のリスクの度合い

このモデルでは期待投資利益率を投資家の立場に立って計算すること、それが基本となっており、リスクフリーレートに個々の投資先企業のリスクの度合いを加味(加算)して計算されます。

まず絶対に安全な投資での利益率に意識を向けます。絶対に回収不能(デフォルト)にならない投資対象として長期国債を基準とし、その利回りが選ばれます。
この際に問題となるのが、リスクフリーレートに対する企業側と投資家との間の意識のギャップです。
現在の日本におけるゼロ金利あるいはマイナス金利の環境下において日本企業はリスクフリーレートとしてゼロに近いものを想定しています。
これに対して、外国人も含まれる投資家は自国におけるリスクフリーレートを想定した期待投資利益率を求めることになります。そしてそのレートは2~3%と言われます。
このモデルの基本的な考え方が「投資家の立場から考える」ということであり、投資家に評価されることがひいては株価の上昇につながるわけですから、このモデルを使う限りは投資家の立場で判断を行うべきでしょう。

次に投資先企業のリスクプレミアムの加算が必要となります。
実際の投資先は国より信用度は低い、、、ならば、国と比較して信用度が低い分利益率は上乗せすべき、という論理です。
その上乗せ分(リスクプレミアム)は上場企業の平均で6%程度と言われています。これは株式投資における平均的なリスクプレミアム(株式投資における平均的期待投資利益率とリスクフリーレートとの差)を意味します。

ただ、個別企業は上場企業平均のリスクではありませんから、この平均値に投資先企業ごとのリスクの度合いであるβ値を乗じて計算されることになります。
トヨタも上場したてのIT企業やイーコマースも同じリスクというわけにはいきません。そこに差をつけようということで、それがβ値となり、値が大きいほどリスクは大きいことを意味します。

β値は個々の企業ごとに設定されますが、これは、株式市場全体の株価変動と個別企業の株価変動との相関関係から導き出されます。
例えば東証Topicsが10%変動した時に個別銘柄A社の株価が平均して15%変動する場合にはA社は平均的な銘柄よりも変動幅が大きい、つまりリスクが高いということになり、15%÷10%=1.5がβ値になります。

以上から、例えばリスクフリーレート3%、平均的リスクプレミアム6%、β値1.5の企業の場合、投資家からみた期待投資利益率は次のように計算されます。
期待投資利益率 = 3% + 6%×1.5 =12.0%

借入利息などと比べて水準が高いと思えますが、これは投資家にとってのリスクを反映したものと理解する必要があります。