学会参加報告’18.6.2 日本管理会計学会関西中部部会 at 立命館大学茨木キャンパス

日本管理会計学会の関西・中部部会の学会に参加しました。
場所は立命館大学の茨木キャンパス。
一般市民の憩いの場ともなっている公園と、それを取り囲むカフェやレストラン、ビヤホールまで備えた、誠におしゃれなキャンパスに驚かされました。

さて、学会報告の中から気になった2つを要約して共有したいと思います。

なお、「 」内はレジュメもしくはペーパーからの引用です。

1.利益の絶対値統制と差分値管理(名城大学 今井範行先生)
タイトルからわかりにくいですが、このテーマはトヨタグループで実際に実践され大きな成果を上げ続けている利益管理実務に関するご報告で、示唆に富んでいました。

伝統的な利益管理においては、「前期までの事業活動から想定される標準的な水準の前提条件にもとづき、利益計画を策定し、利益目標を設定し、利益目標の絶対値を統制(以下省略」されていたのに対して、

トヨタ的利益管理においては、「より保守的な水準の前提条件(櫻井補足:為替の条件などを利益に対してマイナスに働くようにより厳しく設定という意味)を内部的・組織的・意図的に追加的に設定し」厳しい未来を見せることで、「社員間に危機感を醸成することによって、現場の原価低減活動を誘発する。」そして、それによって得られた利益改善の差分値を管理することで、恒常的な利益改善を実現している

と報告されました。

例えば、標準的な前提条件に基づいて計算された利益が100としたとき、これが目標利益とされます。
次に、より厳しい環境条件を前提に利益の予想値が再計算されます。これが仮に20となった場合、現場はこの大きなマイナスに危機感を覚え原価企画・原価改善や販管費削減により強く意識づけられるということなのです。

厳しく設定された前提条件が実際に現れることは少なく、結果として目標以上の利益水準が達成できるということなのですが、誰もが思うことがあります。
それは、厳しい前提条件の設定が”狼少年”となり、このマネジメントが機能しなくなるのではないかという危惧です。
しかし、本社部門からの利益管理よりも現場での継続的改善と自主的な利益管理の文化が根付いたトヨタグループにおいてはそんなことにはならず、結果として得られる大きな成果が次のモチベーションになるとのことでした。

ここでも組織の文化的背景が重要であるということなのだと理解しました。

2.予算文化が利益目標のラチェッティング(櫻井注)に与える影響(神戸大学大学院生の早川翔先生)
(注)ラチェッティングとは、歯車を逆回転させないために歯止めを設置することで、ここでは一旦上がった目標を下げないことを意味している
一般に認められる予算目標を達成した時に翌期に設定される目標の上昇幅よりも、達成できなかった時に翌期に設定される目標の下降幅が低い減少に着目し、そのような現象と予算文化との相関を分析した研究でした。
選択された予算文化としては、

①予算厳守
予算達成に対してそれを課す側(経営者等)が抱く予算達成の期待の度合
②経営陣の注意
経営陣によるモニタリングの強さ、つまり予算統制の強さ
③目標の難しさ
予算目標の達成困難性
④報奨とのリンク
予算目標の達成度合いと金銭的報酬とのリンクの度合

の4つが取り上げられ、調査においてこれらとラチェッティングとの相関が分析されました。

結果は以下の通りです。

〇ラチェッティングの傾向を高める要因(達成時はより高い目標、未達時にもさほど目標を落とさない)
「経営陣の注意が大きいとき」「目標の達成困難性が高いとき」

〇ラチェッティングの傾向を低める要因
「予算厳守が強く求められるとき」

なお、「報奨とのリンク」は影響を与えない、と結論づけられています。

さて、非常にわかりやすい論理展開と明瞭なご報告で、なるほどと理解しつつも、
で、その結論って実務にどう役立つんだろう、という実務家として当然の疑問が沸き上がってきました。

懇親会の場で、共同研究に係っておられる教授に質問してみました。
以下要点です。
①ラチェッティングの傾向が高い前提においては、管理される側(予算の実行者)は翌期において極端に目標を高められるのを避けるために抑え気味の業績を実現しようとする
②逆の場合には、なるべく高い業績を得ることで高い報酬を求めようとする
③このようにラチェッティングの傾向をコントロールすることで予算の実行者の行動をコントロールできる
④一見②の方が好ましいように思えるが、ときには①が組織にとって好ましいこともある。つまりあまりに売上等の業績が大きく上下することは、不必要な事務負担や製造側の平準化を阻害する要因になり、極端な業績向上指向を抑制することが組織の利益につながることもある。

実務家としてのコンサルタントからすると、総合的な組織の利益を重視するという理屈は十分あり得ると思いつつ、業績を意図的に抑制するという発想が果たして実務の現場に受け入れられるだろうかと感じました。

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